サンライズ戦記
前置き。少し前に相方の委員長が社員旅行でシンガポールに行ったのですが、クロアチアならついていったのにな(←行きたい)と思いつつ、委員長不在に気付いてない1才のねる子を見ているとこれはいけるな、と思って、この夏、4才の長男ぺこ太との二人旅を計画することにしました。今しか行けないところがある。
サンライズ出雲・瀬戸〜
東京と四国・山陰を結ぶ、知る人ぞ知る日本で現在唯一毎日運行している寝台列車。他は毎日じゃないけど瑞風とかも走っていますが、寝言は寝て言え!って値段なので(一番安くて一人27万! クロアチア行くがな!)現在唯一の実用的な寝台車でもあります。
実用的な旅行が好きだった両親にスキーだ山だで連れられて昔から結構寝台車に乗っていたので、個人的にもノスタルジーを感じているのとこの年頃なら三分の一は確実にその世界に突っ込んでる電車好きの息子と、委員長に託されて置いてかれても多分気付かないねる子(保育園でも迎えに行くまでこちらの存在を忘れてる)行かない理由はない、となったんですが、問題点が二つ。
1、出雲にも瀬戸にも東京にも用がない。
2、切符とれないことで(その界隈では)有名。
1が結構切実。出雲ってじいちゃんちが島根にあるため、すでに30回は行ってるんでびっくりするほど心が動かない…。
が、四国ならまあいいか、半日で行けるし切符も瀬戸の方がとりやすいって話だし、でなんとか納得させて高松→東京で東京からはとんぼ帰りするという、寝台列車に乗るためだけの旅! いいじゃない!
で、2。まさに問題点。行きたいで行けるわけじゃないのがシビアな世界です。一応切符とってくれるツアーもあるけど、寝台車安いはずなのにツアーはたけえ―。オプションいらないー。
しかし個人で手配となると、「サンライズ出雲・瀬戸 切符 とれない」が上位にあがる電車です。しかも夏休み。小さな鉄オタと大きな鉄オタがひしめき合う激戦区間なわけです。
まあそんなところなので、ネットで色々ととれる裏技を書いてあるわけですが、ノスタルジーな出雲は切符の取り方もノスタルジーでネットではとれない。みどりの窓口へ。
うむ…。色々読み込んで要約すると
『1、切符は、乗車日一か月前の午前10時よりみどりの窓口で販売される。
2、繁忙期の人気席は、一分で完売される。
3、10時打ちを決行せよ』
10時打ち?
さてはて、無事にサンライズ瀬戸の切符は手に入るのか。
続きはまた今度。
サンライズ戦記・中編〜サンライズのジレンマ〜
複数のサイトを見て回っても「10時打ち」の単語が出てきます。解説を読んでみると
特急列車の切符は、乗車日から一か月前の10時きっかりに発売する。サンライズ瀬戸・出雲の場合は、インターネットはなし、みどりの窓口のみ購入可能。
この大前提を胸に、
10時前にみどりの窓口に行き、窓口の人に頼んで9時59分までに券売機に「乗車日時」「列車名」「人数」「席の種類」など購入に必要なデーターを先に打ち込んでおいてもらい、後はエンター(発券ボタン?)を押すだけの状態にしてもらう。窓口の人は、発券ボタンに指をおいて10時になるのを待つ。秒針が10時になった瞬間に、コンマの世界で発券ボタンをすかさず打つことにより、困難な切符も確保する確率があがる。
これを10時打ちという。
生きていく上で確実に役に立たない知識を仕入れてしまった気がしますね。
鉄道マニアの世界では一般教養らしいですが、いやー、いろんな世界があるもんだ。
ただ、みどりの窓口の券売機の操作はもちろんみどりの窓口の人しか無理なので、我々にできるのは頼む→窓口の人の指さばきと運にかける。のみ。
んで、これ公式のサービスでは全然ないらしいので(そらそうだ)、出来ないです対応してないですと言われても文句なんか言っちゃいけないよ、というのも大前提らしい。
つまりサンライズ瀬戸の切符を手に入れるには、
(1)ちょうど乗車一か月前の日の10時前にみどりの窓口でスタンバイできること。
(2)スタンバイ可能な近隣の駅の中で、10時打ちを親切にもやってくれるみどりの窓口があること。
(3)その窓口で10時打ちを狙うライバルを出し抜いて一番に申し込むこと。
(4)窓口の人がコンマの戦いを制すること。
ミッションインポッシブルやん、これ。
まず条件(1)がそもそも厳しすぎる。乗車日だけじゃなく30日前も休日じゃないと作戦が決行できない。条件(2)も子ども二人抱えて動かなきゃいけない身では、精々最寄駅から三駅くらいが限界。
申し込みの日が土日にあたり、なおかつ一か月後に乗車できる日をカレンダーで探すと……一日だけなんとか該当日あり。チャレンジできるのが一日だけとか、すでに難易度が高い。
もう正直、条件(2)もかなり厳しいというか、ここで俺たちの戦記(サーガ)は終わりだなと思っていたんですが、最寄り駅のみどりの窓口をよく見てみると
「一か月前の10時より発売される切符購入の事前受け付けは9時30分より整理券を配布しています。その順番順に10時5分前にみどりの窓口にお並びください」
と貼り紙が。三回くらい熟読して、これ、10時打ちに対応している、って暗に言っているのでは…? 窓口のお姉さんに聞いてみると(10時打ちって単語口に出すのぎくしゃくする…)、「10時打ちというか…確実にできるかと言うとお約束できかねますが、条件がそろっていたら10時すぐ発券させていただきますが…」と言う口ぶりから、これ出来なくもないんだな、と。
はからずも最寄り駅で条件(2)ができなくもないと言う結果になり、これはさすがに一度トライしてみるべきか…。困難な二つを乗り越えちゃったしなあ…。
運命(ディスティニー)が俺(ほうろうしゃ)を夜明け(サンライズ)へ誘(いざな)うぜ…。
というわけで条件(3)です。(2)までクリアしてここでこけたら泣けそう。
しかし、ここまで読んできて薄々感じている人もいるかもしれませんがわりとこういう競争には燃えるタイプなので、ある程度の競争には勝ち抜いてやるぜというガッツはあるのですが、なにしろ鉄道はガチ勢がいる。人生賭けたガチ勢がいる…。
要は、9時30分に配布される整理券の一番をゲットすればいいんですが、整理券ゲットの戦略…。敵を知り己を知れば、と言いますが、最寄り駅にどれほど人が集まるのか…。敵の動向を読み取るって難しい…。
窓口のお姉さんに「整理券に人が並ぶこともあるんですか?」と聞いたところ「たまに並んでいる時もある」とのこと。うーーーーーん。
私一人なら一時間前に文庫本持って並んでても全然いいんですが、幼児二人を抱えてワンオペ(その日、委員長シンガポールだった)状態では、なるべくぎりの時間ですませたい…。
というわけで、敵情視察に、当日とだいぶ条件が近い一週間前の土日の9時15分から最寄り駅のみどりの窓口に行って整理券状況を見ることにしました。
うろうろ…うろうろ…うろうろ…
怪しい。
外から見ると色々あれな感じでしたが、9時30分まで待ってみても整理券とりに来る人はいない、という結果に。
確実ではないけれど、9時20分くらいに並んでおけばなんとかなるかな、と算段つけます。
もうその日に切符とれよ! というツッコミ入りそうですが、この日にとっても1か月後の乗車日には乗れないというジレンマ。これをサンライズのジレンマと名付けよう…。
んで、ここいらでちょっと我に返って、しかし自分は前評判に呑まれて敵の実力を過大評価しているのでは…? サンライズ瀬戸(高松→東京間)はサンライズシリーズの中では一番とりやすいって言う話だし、もしかしたらここまでしないでも、案外あっさりとれるかもしれない。ヤフー知恵袋で「普通にとれました」ってコメントもあったしな、これで普通にとれた切符だったらただのバカだしな。(すでにバカ)
と思い、試しに1か月後に乗車はできるんだけど、予約のために10時にみどりの窓口には行けない日(整理券偵察日とは逆パターン)の仕事帰りに職場の最寄りの駅のみどりの窓口で聞いてみたんですよね。
窓口「その日のサンライズ瀬戸シングルデラックス、喫煙禁煙すべて完売です」
我が敵はやはり強大ナリ。
そら午後六時に来たけど、でも一か月前よ…?
というわけで、残された手段は、やはり10時打ち…! しかもトライできるのは一日だけ。
俺たちのミッションインポッシブルはこれからだ……!!
サンライズ戦記ファイナル〜いっぱいのブルータス〜
補足。
サンライズそんなに乗れないんですか? と言われるとまあ乗れないけど、そこまででもないと。鉄道に詳しい人ならわかるんですけど、そもそも狙っている席が「シングルデラックス」という唯一のA寝台個室で禁煙喫煙あわせても6席しかないもの。
なんでそこ狙っているかと言うと幼児連れなので、周囲を気にせず(雑魚寝のような席もある)あまり無理なく添い寝をしたいとなると、個室でシングル広めのここしかないってなっちゃうんですよね。(シングルソロってのもあるらしいけど、添い寝はかなりきついらしい)まあ個室のツインも数少なくて大人気なので一緒みたいですが。
というわけでこの重大ミッション、
前日まで忘れていた
気合の入れようで(子連れの行動であんまり過度な期待をしてはいけません)決戦の日曜日、雨です。ベビーカーにカバーかけて、傘さした幼児をつれて最寄り駅へ。みどりの窓口には誰も並んでいません。人のよさそうなお姉さんに「整理券待たせてもらってよいですか」とちゃんと一番アピールをした後、脇に避けて、4才と1才にはお菓子小出し作戦で待機を命じます。10分くらいならなんとかこの作戦で待てるはず…!
雨の最寄り駅、ライバルは……来ない。
すると、最寄り駅なので、ペコ太と同じ保育園の男の子が道の向こうからやってきました。雨なのにリュックサック背負って嬉しそうに
「ぼく、今から鉄道博物館に行くんだ」
お前もか。
「なにしてるの? サンライズ? ぼく乗ったことあるよ」
お前もか。
その子のお母さんと戦友だけが交わせる笑みを交換し見送りました。この年頃の男の子を集めるとその三分の一は鉄道好きでできている。ブルータスはいっぱいいるんだ…。
さて時間が近づいてきました。
雨の日曜日に、みどりの窓口の脇にじーっと立って安いお菓子を分け合う見すぼらしい母子連れを見兼ねてか「二分前ですが…」とみどりの窓口のお姉さんが整理券くれました。一番ゲットだぜ!
ネットの必勝法に従って、あらかじめ書いておいた指定券申込書を恭しく差し出すと、準備がいいと喜んでもらえました。心証大事!
お姉さん「サンライズ瀬戸ですね。高松から東京……10時に発券すれば多分、とれると思いますが……」
そこでお姉さん、思案の末、顔をあげて。
「出雲でもいいですか?」
香川県からの切符とろうとして「島根県でもいいですか?」って返される事態、普通はありえないですよね。いいです。
もちろん瀬戸がダメな場合ですが、第二希望、第三希望も出し、とりあえず作戦(1)〜(3)をクリアし達成感に包まれました。(4)「窓口の人がコンマの戦いを制すること」は正直、私が頑張るところではない。そう、たとえ敗れても、私はやり遂げたのです…。
エンドロール流れる気分で、ホームにあがり(定期券持っているので無料で入れる)走り去っていく貨物列車や特急列車を見ながら時間をつぶし、5分前に再びみどりの窓口へ。
お姉さんも覚えておいてくれて、2分前になると、窓口をなんと封鎖してくれました。一つしかないのに大丈夫…? ちょっと不安になりつつも、まあもう2分切ってるし許してもらうか。レインボーブリッジも封鎖したし…。(90年代のフレッシュなネタをお楽しみください)
小さな駅なのに、駅員さん三人くらい集まってきてみんなでモニターを見つめてます。みんな凄い真剣だ…。時計の秒針が真上に近づいています。発券の席に座るお姉さんは、キーに指を置いて緊張の面持ち。それをフォローするように後ろに立つ二人。その場を緊迫感が包み込みます。
自分が全部作り出しときながら、なんだこの状況。
秒針がいま、真上に向かって動きます。その時。
「定期まだですか!?」
!?
混んではなかったのですが、ホームから戻ってきたとき一人のお客さんが券売機に行ったり窓口戻ったり行ったり来たりしてたのです。どうやら自分ではない誰か(子どもの?)のために定期券を買おうとしていたみたいですが、不慣れなためわからずに窓口のお姉さんに色々聞いている様子でした。質問する→申込用紙に書く→質問するみたいな感じで往復してました。
わりと悠長な感じだったし、窓口封鎖した時も記入用テーブルに向かうところを後ろからお姉さんに「事前受付の発券をしますので10時までお待ちください」と言われて、あ、はい、みたいな感じだったのですが、記入して戻ってきてから急に時計見て焦りだしました。とりあえずその人にコメツキバッタみたいに謝っておく葉山。
「10時すぐにお出ししますのでお待ちください!」
窓口の3人のうち誰かが口早に返して。
あれ? もう10時になった?
結果としてお伝えすると。
とったど〜。
(10数年前から現代まで通用するフレッシュなネタ(魚だけに)をお楽しみください)
キーを打って何かを確認した瞬間に、窓口のお姉さんは封鎖の看板をはぎ取り、定期券のお客さんに急いで対応し、その合間に「とれましたよ」と口早に言ってくれました。定期券のお客さんは去っていきました。なんとなく気まずい中、お姉さんはこちらを見て
「サンライズ瀬戸、シングルデラックス、喫煙でしたがとれました」
あ、ありがとうございます。
感動と言うより一連の出来事になんか呆気にとられ、頭を下げてた流れのままお姉さんにもコメツキバッタして、しかし骨を折ってくれたからにはちゃんと手厚く礼を言わねばと理性が働き、おありがとうごぜえやす、ぜんぶ皆々様方のおかげでごぜえやす、息子も喜びますぜ、へへへ、ともみ手をしながら立ち去りました。
そういうわけで、じわじわ嬉しくなってきたのはその後。とれたのもうれしいけど、困難なことに挑んでクリアしたって達成感がたまりません。(1)〜(4)の試練を、作戦により見事打ち勝ったのです。え?(4)「窓口の人がコンマの戦いを制すること」に作戦はないって? いいえ。ここでひそかに最大のトラップが発動していたのです。(関係ないって言ってたのに)
(4)の秘策…。知り合いは楽しくお出かけしている雨の日曜に朝から幼児二人連れて、誰も並んでいない窓口の脇にずっと佇むみすぼらしい母……そう、情に訴えかける(主に哀れみ)作戦です。忍法で言うと哀車の術。傍らのペコ太は、サンライズのシャツまでさりげなく着てましたからね。またこのシャツおさがりで穴あいてんだけど気に入って着続けるという…。(ファッションでは作り出せない本当のみすぼらしさがここにある!)
そうしてすべての戦いが終わったとき、手元には1枚の切符。そう、人事は尽くし、天命を待ち……
ミッションインポッシブル……完了です。
ここまで言っておきながらミッションインポッシブル一作も見てないんで、もしかしてトム・クルーズ、ミッション完了したらなんか有名な決め台詞を言うのかもしれないですね。ミッションは会議室でおこっているんじゃない、現場でとか(90年代のフレッシュなネタをお楽しみください)
トム・クルーズの有名な決め台詞「 」
念のため置いておきます。脳内補完してね!
サンライズ戦記エピローグ<勝者インタビュー>〜風に乗って〜
勝因ですか。そうですね、勝因はなんと言っても、――窓口のお姉さん。
そうこの戦いに勝者も敗者もいなかったのです。いたのはお姉さんだけ。(常にスタンスがぶれる葉山です)
まあお姉さんに哀れみと共感と取ってやらないと惨めすぎるだろこいつら、という気持ちを抱かせた時点で、勝利の欠片はこちらにあったのかもしれません…。
まあ、でも子どもってあれですからね。なんでここで熱を出すの?って時にやらかしたりするので、乗れるまでは油断はできないんで、俺たちの戦いは等しくこれからです……。
ちなみに当のペコ太くんは、窓口の脇に立ち始めたあたりから「なにしてるの?」と聞いてきて(そりゃ聞く)サンライズの切符を買いに来たというと、すっかりその気になったので「とれるかわからないけど。ダメ元でね。とれない可能性も高いからね。とれなくてもがっかりしちゃだめだよ。とれたらラッキーくらいの気持ちでね」と懇々と窓口の脇で言い聞かせられてました。こんなやりとり聞かされるお姉さんの気持ちを考えろという話ですね。ナイスアシスト
(仕込みではない)
んで、取れた後は、それなりにわくわくしてるのか、「カレンダー、乗る日に印つけといて」とか、朝起きて開口一番に「あと何回寝たら乗れるの?」と聞いてくる、微笑まエピソード(微笑ましいエピソード)を着実に重ねていますが。そんな彼がよく言うのがこちら。
「あと何回寝たら
成田エクスプレス
に乗るの?」
乗らないよ。
サンライズが正式名称サンライズエクスプレスなのでわからないでもないですが(特急はたいていエクスプレスだけど)何回も言い間違えてる時点でオタクの気概を若干母に疑われています。
まあ、彼が現在一番好きな乗り物は、飛行機ですからね。所詮、ファッション鉄に過ぎないのかもしれません。そういう意味では、空港に向かう成田エクスプレスは正しいのかもしれない。
んでも、お前が一番乗りたい二階建て飛行機エアバスA-380は現在国内では関空‐ホノルル間でしか就航していないので(葉山調べ)成田も残念お前が目指すのは南海ラピート(関空直行)だ(早口)
そんな迷走を続ける息子と二人で、この夏、寝台車に乗ってきます。
クロアチアの夢、見られるかな!?(ペコ太は飛行機
ご清聴ありがとうございました。
サンライズ戦記<完>